コレラは代表的な経口感染症の1 つで、コレラ菌(Vibrio choleraeO1およびO139のうちコレラ毒素産生性の菌)で汚染された水や食物を摂取することによって感染します。経口摂取後、胃の酸性環境で死滅しなかった菌が、小腸下部に達し、定着・増殖し、感染局所で菌が産生したコレラ毒素が細胞内に侵入して病態を引き起こします。
わが国におけるコレラは、最近はほとんどが熱帯・亜熱帯のコレラ流行地域への旅行者の現地での感染による、輸入感染症として発見されます。国内での感染例の報告もありますがが、輸入魚介類などの汚染が原因であろうと推定されていて、二次感染例と思われる例はほとんどありません。
・臨床症状
通常1日以内の潜伏期の後、下痢を主症状として発症します。一般に軽症の場合には軟便の場合が多く、下痢が起こっても回数が1日数回程度で、下痢便の量も1日1リットル以下です。しかし重症の場合には、腹部の不快感と不安感に続いて、突然下痢と嘔吐が始まり、ショックに陥ります。下痢便の性状は“米のとぎ汁様(rice water stool)”と形容され、白色ないし灰白色の水様便で、多少の粘液が混じり、特有の甘くて生臭い臭いがあります。下痢便の量は1日10リットルないし数十リットルに及ぶことがあり、病期中の下痢便の総量が体重の2倍になることも珍しくありません。
大量の下痢便の排泄に伴い高度の脱水状態となり、収縮期血圧の下降、皮膚の乾燥と弾力の消失、意識消失、嗄声あるいは失声、乏尿または無尿などの症状が現れます。
低カリウム血症による痙攣が認められることもあります。この時期の特徴として、眼が落ち込み頬がくぼむいわゆる“コレラ顔貌”を呈し、指先の皮膚にしわが寄る“洗濯婦の手(washwoman's hand)”、腹壁の皮膚をつまみ上げると元にもどらない“スキン・テンティング(skin tenting)”などが認められます。通常発熱と腹痛は伴いません。
・治療と予防
治療は大量に喪失した水分と電解質の補給が中心で、GES(glucose electrolytes solution)の経口投与や静脈内点滴注入を行います。WHOは塩化ナトリウム3.5g 、塩化カリウム1.5g 、グルコース20g 、重炭酸ナトリウム2.5 g を1リットルの水に溶かした経口補水塩(Oral Rehydration Solution:ORS)の投与を推奨しています。ORSの投与は特に開発途上国の現場では、滅菌不要、大量に運搬可能、安価などの利点が多く、しかも治療効果も良く極めて有効な治療法です。
重症患者の場合には抗生物質を使用します。その利点として、下痢の期間の短縮や菌の排泄期間が短くなることがあげられます。第一選択薬としては、ニューキノロン系薬剤、テトラサイクリンやドキシサイクリンで、もし菌がこれらの薬剤に耐性の場合には、エリスロマイシン、トリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤やノルフロキサシンなどが有効です。
予防としては、流行地で生水、生食品を喫食しないことが肝要です。経口ワクチンの開発が試みられているが、現在のところ実用化されていません。
▽コレラ菌:米のとぎ汁様下痢便 のキーワード
▽次の記事、前の記事
当サイトのRSS
新着アイテム
ジャンル
Copyright (C) 2008
by 下痢(げり)便秘(べんぴ)おなかSOSドットコム