ノロウイルス(Norovirus)は、2002年までは、電子顕微鏡で観察される形態学的分類でSRSV(小型球形ウイルス)、あるいはノーウォーク様ウイルス“Norwalk-like viruses”という属名で呼ばれてきたウイルスです。現在では、国際ウイルス命名委員会によってノロウイルスという正式名称が決定され、世界で統一されて用いられるようになりました。
ノロウイルスはヒトに対して嘔吐、下痢などの急性胃腸炎症状を起こすしますが、その多くは数日の経過で自然に回復します。季節的には秋口から春先に発症者が多くなる、冬型の胃腸炎、食中毒の原因ウイルスとして知られています。
ヒトへの感染経路は、主に経口感染(食品、糞口)です。感染者の糞便・吐物およびこれらに直接または間接的に汚染された物品類、そして食中毒としての食品類(汚染されたカキあるいはその他の二枚貝類の生、あるいは加熱不十分な調理での喫食、感染者によって汚染された食品の喫食、その他)が感染源の代表的なものとしてあげられます。ヒトからヒトへの感染として、ノロウイルスが飛沫感染、あるいは比較的狭い空間などでの空気感染によって感染拡大したとの報告もあります。この場合の空気感染とは、吐物や下痢便の処理が適切に行なわれなかったために残存したウイルスを含む小粒子が、掃除などの物理的刺激により空気中に舞い上がり、それを吸入し、経食道的に嚥下して消化管へ至ることです。
・臨床症状
潜伏期は1〜2日であると考えられ、嘔気、嘔吐、下痢が主症状ですが、腹痛、頭痛、発熱、悪寒、筋痛、咽頭痛、倦怠感などを伴うこともあります。特別な治療を必要とせずに軽快しますが、乳幼児や高齢者およびその他、体力の弱っている者での嘔吐、下痢による脱水や窒息には注意をする必要があります。
ウイルスは、症状が消失した後も3〜7日間ほど患者の便中に排出されるため、2次感染に注意が必要です。ノロウイルスはヒトの空腸の上皮細胞に感染して繊毛の委縮と扁平化、さらに剥離と脱落を引き起こして下痢を生じると考えられていますが、このような現象がどのようなメカニズムによるものなのか、その詳細はまだ不明です。
・治療と予防
感染者より排泄された糞便および吐物は、感染性のあるものとして注意が必要です。下水より汚水処理場に至ったウイルスの一部は浄化処理をかいくぐり、河川に排出され、海でカキなどの二枚貝類の中で濃縮されます。汚染されたこれらの貝類を生のまま、あるいは十分加熱しないまま食べると、再びウイルスは人体に戻り、感染を繰り返すことになります。
一般に、加熱した食品であればウイルスは完全に失活するので問題はありませんが、サラダなど加熱調理しないで食する食材が感染源となります。汚染された貝類を調理した手や包丁・まな板などから、生食用の食材に汚染が広がる可能性もあります。また最近の報告では、ノロウイルスの感染者を看護や世話をする機会に、患者の吐物、便などから直接感染するヒト‐ヒト間の感染があることも明らかにされています。
糞口感染するウイルスであるので、食品衛生上の対策としては、食品の取り扱いに際して入念な手洗いなど衛生管理を徹底すること、食品取扱者には啓発、教育を十分に行う事が大切です。
身近な感染防止策として手洗いの励行は重要です。また吐物など、ウイルスを含む汚染物の処理には、次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒するか、85℃以上で少なくとも1分以上加熱する必要があるとされています。
治療としてはノロウイルスの増殖を抑える薬剤はなく、整腸剤や痛み止めなどの対症療法のみです。
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