黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus )は、歴史的にはKoch(1878年)が膿汁中に発見し、Pasteur(1880年)が培養に成功したとされています。ブドウ球菌の中で特に黄色ブドウ球菌は、化膿巣形成から敗血症まで多彩な臨床症状を引き起こし、種々の市中感染症、新生児室感染症、院内感染症、および毒素性ショック症候群等の起因菌となります。特にメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は、院内感染や術後MRSA腸炎の原因となり、重要な問題となっています。
ブドウ球菌食中毒は、黄色ブドウ球菌が食品中で増殖する時に産生するエンテロトキシンを、食品と共に摂取することによって起こる毒素型食中毒です。
エンテロトキシンは分子量27,000前後の単純蛋白質で、トリプシンなどの消化酵素や熱に対して抵抗性があり、抗原性の違いから現在A〜L型までが報告されています。食中毒事件中、最も発生件数の多いエンテロトキシン型はA型で、A+B型、A+D型を合わせると、80%以上はA型に関連しています。また、エンテロトキシンはT 細胞を特異的に活性化し、短時間に多種類のサイトカインを大量産生させる作用があり、「細菌性スーパー抗原」とも称されています。
ヒトでエンテロトキシンによる発症に必要な量は、エンテロトキシンBでは25〜50μgと考えられていましたが、加工乳などの事件では200ng以下のエンテロトキシンAで発症していることも報告されています。
実験動物スンクス(Suncus murinus )の腹腔内にエンテロトキシンAを投与すると、約90分後に嘔吐が周期的に複数回みられ、この嘔吐は腹部迷走神経切断処理、セロトニン受容体拮抗薬の前投与、さらにセロトニン枯渇薬の前処理等により抑制されました。これらの結果から、ブドウ球菌食中毒の特徴的な症状である嘔吐と下痢は、エンテロトキシンがEC細胞(腸クロム親和細胞)からのセロトニン分泌を誘発することによって起こる生体反応であることを強く示唆しています。
臨床症状
黄色ブドウ球菌は、食品中で増殖する時エンテロトキシンと呼称される毒素を産生します。エンテロトキシンが産生された食品を喫食すると、約3時間後に激しい嘔気・嘔吐、疝痛性腹痛、下痢を伴う急激な急性胃腸炎症状を発します。毒素量などの違いにより症状には個人差がみられますが、まれに発熱やショック症状を伴うこともあります。重症例では入院を要することもあります。一般には予後は良好で、死亡することはほとんどなく、通常1日か2日間で治ります。
2000年に発生した患者数13,000名を超える雪印ブドウ球菌食中毒事件では、原因食品が加工乳などであったため、対象者が成人、子供、老人、病人など様々で、その症状も嘔気・嘔吐、下痢の他に、多彩な臨床症状がみられました。
治療・予防
本菌による食中毒患者への特別の治療法はなく、補液と対症療法を行い経過をみます。下痢止めは使用しません。予後は良好で、1日か2日で回復します。
予防には、食品製造業者や食品製造従事者への衛生教育の啓発が大切です。手洗いの徹底、食品の10℃以下での保存、手指に化膿巣のある人は食品を直接触ったり、調理しない。さらに調理にあたっては、帽子やマスクを着用すること。そして、食品製造から消費までの時間を短縮することを心掛けることが重要です。
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