下痢原性大腸菌は以下の5種類に分類されます。
1)腸管病原性大腸菌(enteropathogenic Escherichia coli:EPEC)
先進国とは異なり開発途上国においては、EPEC は現在でも乳幼児胃腸炎の依然として重要な原因菌です。ブラジル、メキシコなど中南米を中心とした地域の乳幼児胃腸炎の患者からのEPECの検出が多くみられます。EPEC 感染症は成人においても発生し、わが国においても毎年5 〜10 件のEPEC による食中毒が発生しています。
2 )腸管侵入性大腸菌(enteroinvasive Escherichia coli:EIEC)
EIEC 感染症は一般に発展途上国や東欧諸国に多く、先進国では比較的まれです。その媒介体は食品または水ですが、ときにはヒトからヒトへの感染もあります。現在、わが国におけるEIECの分離の多くは海外渡航者の旅行者下痢からです。
3 )毒素原性大腸菌(enterotoxigenic Escherichia coli:ETEC)
ETEC は途上国における乳幼児下痢症の最も重要な原因菌であり、先進国においてはこれらの国々への旅行者にみられる旅行者下痢症の主要な原因菌です。また、途上国においてはETEC下痢症はしばしば致死的で、幼若年齢層の死亡の重要な原因のひとつです。ETEC の感染は多くの場合、水を介しての感染だと考えられています。わが国においては下痢原性大腸菌による食中毒事例のなかではETEC による発生件数がもっとも多い。
4 )腸管凝集性大腸菌(enteroaggregative Escherichia coli:EAEC)
EAECは、開発途上国の乳幼児下痢症患者からよく分離されます。わが国ではEAEC 下痢症の散発事例はありますが、食中毒、集団発生事例の報告は少ない。比較的新しい菌群であり、自然界での分布も明らかではありません。
5)腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli:EHEC)
腸管出血性大腸菌(EHEC)は、Vero毒素産生性大腸菌(VTEC)、志賀毒素産生性大腸菌(Shiga toxin-producing E.coli:STEC)とも呼ばれています。EHECによる感染症は、1990年の本菌による集団下痢症により患者319名のうち2名の幼稚園児が溶血性尿毒症症候群(HUS)で死亡する事件を契機に注目され、EHECの検出情報の収集が開始され、1991〜1995年までは、年間の検出数が100前後であったものが1996年5月以降、血清型O157を中心に爆発的に増加しました。
臨床症状
EPEC による症状は下痢、腹痛、発熱、嘔吐などで、乳幼児においてはしばしば非細菌性胃腸炎やETEC 下痢症よりも重症で、コレラ様の脱水症状がみられることがあります。
ETEC による主症状は下痢であり嘔吐を伴うことも多いのですが、腹痛は軽度で発熱もまれです。しかし重症例、特に小児の場合コレラと同様に脱水症状に陥ることがあります。
EPEC、ETEC 感染症における潜伏期間は12〜72 時間ですが、それより短い場合もあります。EIEC による症状は下痢、発熱、腹痛ですが、重症例では赤痢様の血便または粘血便、しぶり腹などがみられ、臨床的に赤痢と区別するのは困難です。潜伏期間は一定しませんが、通常12 〜48 時間とされています。
EAEC による症状は2週間以上の持続性下痢として特徴づけられますが、一般には粘液を含む水様性下痢および腹痛が主で、嘔吐は少ないとされています。
EHECは、加熱の不十分な食材から感染し、100個程度という極めて少数の菌で発症し感染症・食中毒をおこします。 そのため感染者の便から容易に二次感染が起こります。また、EHECはベロ毒素を作り出します。ベロ毒素は、大腸の粘膜内に取り込まれたのち、リボゾームを破壊し蛋白質の合成を阻害します。蛋白欠乏状態となった細胞は死滅していくため、感染して2〜3日後に血便と激しい腹痛(出血性大腸炎)を引き起こします。また、血液中にもベロ毒素が取り込まれるため、血球や腎臓の尿細管細胞を破壊し、溶血性尿毒症症候群(急性腎不全・溶血性貧血)急性脳症なども起こることがあり、急性脳症は死因となることがあります。
診断
患者便、原因食品から大腸菌を分離し、その生化学的性状、血清型を調べるとともに毒素産生性、細胞侵入性、細胞付着性などについて病原因子を調べます。病原因子の検査方法については培養細胞を用いた生物学的方法や標的遺伝子の検出による遺伝学的方法があり、各病原因子のプライマーを用いたPCR が一般的に応用されています。EPEC については培養細胞付着性、EAF プラスミド、BFP 、eae 遺伝子の有無について調べます。EIEC では培養細胞侵入性、病原性プラスミドの有無、ETEC についてはLT、ST、CFA の有無、EAEC については、培養細胞付着性、AAF 、EAST1 の有無について調べます。EHECでは(O157,O26等)が産生するベロ毒素を検出。
治療・予防
治療は基本的には赤痢やサルモネラ症と同様で、対症療法と抗生物質の投与が中心です。特にETEC 感染症の場合は脱水症状に対する輸液が必要となります。予防対策としては、食品からの汚染を避けるために、食品の十分な加熱、調理後の長期の食品保存を避けるなどの注意が大切です。また、発展途上国等への旅行では、飲水として殺菌したミネラルウオーター等を飲用するなどの心がけも必要です。ヒトからヒトへの二次感染に対しては、手洗いを徹底することで予防することができます。
腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症では、下痢止めを服用すると、ベロ毒素が排出されない為、重篤もしくは死亡する可能性があります。一般的な治療法としては、下痢止めを処方することは極力避け、絶食をさせるとともに、輸液を行います。また、透析等も検討しますが、対症療法的な処置と言わざるを得ません。
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