ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、クロストリジウム属の細菌で、グラム陽性の大桿菌および偏性嫌気性菌です。土の中に芽胞の形で広く存在します。菌は毒素の抗原性の違いによりA〜G型に分類され、ヒトに対する中毒はA・B・E・F型で起こります。A・B型は芽胞の形で土壌中に分布し、E型は海底や湖沼に分布します。
ボツリヌスの語源はラテン語のbotulus(腸詰め、ソーセージ)であり、19世紀のヨーロッパでソーセージやハムを食べた人の間に起こる食中毒であったためこの名がついています。1896年、ベルギーの医学者エミール・ヴァン・エルメンゲム(Emile van Ermengem)により発見・命名されました。
ボツリヌス菌食中毒の原因となりやすい食品は通常、酸素のない状態になっている食品で、缶詰、ビン詰、自家製のいずしなどの保存食品があります。
海外ではキャビア、野菜などの自家製びん詰や缶詰、ハム・ソーセージ類による食中毒がみられます。
わが国では、北海道や東北地方の特産である魚の発酵食品“いずし”による食中毒が数多く報告されています。この“いずし”に食中毒が多いのは、次のような理由によります。
1)自家製で長期間保存されることが多い食品のため、衛生管理が不十分な場合がある。
2)調理に加熱工程がない。
3)この地方の土壌に、ボツリヌスE型菌が分布している。
臨床・症状
ボツリヌス毒素を含んだ食物を食べることで起こる四肢の麻痺が主な症状です。潜伏期間は8時間〜36時間で、吐き気、おう吐や視力障害、言語障害、えん下困難(物を飲み込みづらくなる。)などの神経症状が現れるのが特徴で、重症例では呼吸まひにより死亡することがあります。その他、複視・構音障害・排尿障害・発汗障害・喉の渇きがみられます。一方、発熱はほとんどなく、意識もはっきりしたままです。
乳児ボツリヌス症の場合、便秘などの消化器症状に続き、全身脱力が起きて首の据わりが悪くなります。
治療・予防
1)真空パックや缶詰が膨張していたり、食品に異臭(酪酸臭)があるときには食べないこと。
2)ボツリヌス菌は熱に強い芽胞を作るため、120℃4分間(あるいは100℃6時間)以上の加熱をしなければ完全に死滅しないので、家庭で缶詰、真空パック、びん詰、“いずし”などをつくる場合は加熱殺菌の温度や保存の方法に十分注意しないと危険です。
3)容器包装詰加圧加熱殺菌食品(レトルトパウチ食品)や大部分の缶詰は、120℃4分間以上の加熱が行われているので安全ですが、これとまぎわらしい形態の食品が流通しているので注意が必要です。
「食品を気密性のある容器包装に入れ、密封した後、加圧加熱殺菌した(缶詰、瓶詰を除く。)」旨の記載がない食品は、表示で保存方法を確認し、適切な保存をすることと表示されている期限内に食べることが必要です。
中毒になった場合、抗毒素はウマ血清のみ(ただし、乳児ボツリヌス症では致死率が低いこともあり、一般的に使われない)。毒素の型ごとに抗毒素もあります。一般に「食餌性ボツリヌス症に対する抗毒素の投与は発症から24時間以内が望ましい」とされますが、24時間以上経過での投与でも効果が有ることが報告されています。
ワクチンは研究者用にボツリヌストキソイドが開発されていますが、中毒になってから用いても効果がありません。また、米国においてボツリヌス免疫グロブリンが開発されています。
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