腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)は、ビブリオ属に属する好塩性のグラム陰性桿菌の一種です。主に海水中に生息する細菌で、本菌で汚染された魚介類を生食することで、ヒトに感染して腸炎ビブリオ食中毒を発症させます。1950年10月、大阪南部で発生した "シラス干し" による患者272名、死者20名の大規模食中毒の原因菌として、同年に大阪大学の藤野恒三郎によって腸炎ビブリオが初めて分離されました。
現在でも、8月を発生のピークとして、7〜9月に多発する細菌性食中毒の主要原因菌のひとつです。
日本において腸炎ビブリオ食中毒は、サルモネラと並んで発生件数の最も多い食中毒で、日本以外では東南アジアなどでも発生が見られますが、魚を生食する習慣のないヨーロッパやアメリカ合衆国などではあまり見られない疾患です。
感染源
腸炎ビブリオは海水に広く存在するため、生鮮海産魚介類を介した経口感染が主で、ヒトからヒトへの感染はまれです。原因食品としてはイカや貝類が比較的多いのですが、その他の一般の魚など、ほとんどの海産魚介類の生食が原因となります。
腸炎ビブリオの感染が成立するには約100万個以上の生きた菌の摂取が必要と言われ、食中毒性サルモネラと同様、経口感染症の起因菌の中では比較的、感染・発病に多数の菌を必要とする部類に属します(これに対し、例えば赤痢菌は10-100個の菌で発病する)。ただし、増殖が早い菌であるため、夏期に常温で放置した魚介類などでは2〜3時間のうちに発病菌数にまで増殖することがあります。また好塩菌であるため、漬け物などの塩分を含む食品に二次感染し、それが感染源となることもあります。
臨床症状
潜伏期間は12時間前後で、主症状としては激しい腹痛があり、水様性や粘液性の下痢がみられます(まれに血便がみられることもある)。下痢は日に数回から多いときで十数回で、しばしば発熱(37〜38℃)や嘔吐、吐き気がみられます。下痢などの主症状は一両日中に軽快し、回復します。高齢者では低血圧、心電図異常などがみられることもあり、死に至った例もあり注意が必要です。
治療・予防
感染性胃腸炎の治療としては対症療法が優先されるが、腸炎ビブリオでは特に抗菌薬治療を行わなくても数日で回復します。ぜん動抑制をするような強力な止瀉薬は、菌の体外排除を遅らせるので使用しません。下痢による脱水症状に対しては輸液を行います。解熱剤は脱水を増悪させることがあり、またニューキノロン薬と併用できないものがあるので、慎重に選択すべきです。病原体の定着阻止を目的に、乳酸菌などの生菌整腸剤を使用。抗菌薬を使用する場 合は、ニューキノロン薬あるいはホスホマイシンを3日間投与します。
腸炎ビブリオ食中毒の予防は、原因食品、特に魚介類の低温保存、調理時あるいは調理後の汚染防止が重要です。真水や高温などに弱い菌であるため、生魚を真水でよく洗浄することや、十分に加熱調理することでも感染を予防することが出来ます。
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