糞便移植療法(fecal microbiota transplantation:FMT)は、健常者の便を患者の腸内に投与することで患者の腸内フローラを正常化させることを目的とした治療法です。
クロストリジウム・ディフィシル感染症(Clostridium difficile infection:CDI)は抗生剤の投与などにより正常な腸内フローラが攪乱されて多様性が低下し、菌交代症が生じることで発生すると考えられている疾患です。下痢、発熱などを主症状とし、多くは原因となる抗生剤の中止やメトロニダゾール、バンコマイシンといったクロストリジウム・ディフィシルに有効な抗生物質による内服治療により改善しますが、なかには再発を繰り返す難治例も存在します。
2013年にvan Noodらが報告した糞便移植療法(FMT)は多くの文献で再発性CDIに対してその有用性が報告されてきました。近年では潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患に対して臨床応用がなされていますが、その有用性に関しては論議が分かれています。
糞便移植療法の糞便処理と投与方法
ドナー便100〜150gと生理食塩水を混和しバッグミキサー(食品や種子等の微生物試験において前処理均質化を行うビニールバッグ用ホモジナイザー)で濾過して得られた約250mLの液体を潰瘍性大腸炎、CDIに対しては大腸内視鏡で盲腸に、クローン病に対してはバルーン内視鏡で上部空腸に散布します。
ドナーは成人で健康な親族や配偶者、または患者本人より直接指定された健康な知人とし、スクリーニング検査(上部消化管内視鏡検査、尿素呼気試験、大腸内視鏡検査、各種感染症血液検査、糞便検査、心理検査)を行います。
FMTは大きな副作用は見られず安全性も比較的高いとされますが、現時点で保険適応はなく、ドナースクリーニングに時間と費用がかかること、適格なドナーが探せないことなどがあります。有効な菌に富んだスーパープロバイオティクスの開発も進められていますが、事前に検査を行って安全性が確認されている第三者の便をストックする糞便バンクの設立も検討されています。
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