食中毒は、細菌に汚染された食品を飲食することでおこります。生菓子や肉・魚介類加工品、弁当などの食品メーカーでは、特に、出荷する食品が細菌に汚染されていないかという点に細心の注意を払っています。食中毒が発生したら、消費者の信頼を一瞬にして失いかねないからです。
そんな中、注目を集めているのが、日立製作所が開発したばかりの食品細菌数自動計測装置です。調べたい食品を水につけ、その水を装置にセットするだけで、大腸菌などによる汚染の有無、その細菌数まで90分で自動計測できるというものです。
従来の食品の細菌汚染検査は、結果が出るまでに24〜48時間かかっていました。細菌が見えるようになるまで、寒天培地で培養する必要があったためです。
「誰でも、簡単に、早く結果をだせる装置を作れないか」という食品メーカー数社からの相談を受け、日立製作所は2005年から研究開発を始めました。細菌を蛍光染色して数を計測する「フローサイトメトリー法(*1)」を応用することで、開発にこぎつけることができました。
※カセット式食品細菌数自動計測装置(日立製作所HPより)
その方法は、まず、食品をつけた水に、細菌のDNAだけを染める蛍光色素を混ぜます。この水を細い管の中に流し込み、特殊な波長の光をあてると、生きた菌がいれば赤色、死んだ菌なら紫色に光るようにしました。そして、生きた菌のみを自動計測するという仕組みです。
カセット式食品細菌数自動計測装置の特徴は次の2点です。
1)90分以内での細菌数計測を可能にしたMEMS技術を用いた「フローサイトメトリー法」
MEMS(*2)技術の微細加工を用いて微細流路(寸法:長さ2mm×幅100µm×深さ20µm)の計測部を形成して使い捨てのカセットに搭載することで、送液機構の簡略化および洗浄機構を不要になりました。これにより、装置の小型化を図りつつ、「フローサイトメトリー法」を採用することが可能になりました。「フローサイトメトリー法」では、細菌数を直接計測するために細菌の培養が不要となり、計測終了までを90分以内に行うことが可能になりました。
2)前処理から計測までの全工程の自動化を可能にしたカセット方式
試料原液の食品屑除去および細菌染色などの前処理から細菌数計測までの工程に必要なフィルター濾過部、染色容器、微細流路の計測部などの要素をひとつの使い捨てカセットに集約しました。
カセットには細菌染色の蛍光色素が1回の計測に必要な分量だけ内蔵しているため、使用者は試料原液を注入したカセットを装置に挿入するだけで作業は完了し、装置が全自動で前処理と計測を行います。
今回開発されたカセット式細菌数自動計測装置は小型で取り扱いが容易なため、簡便に食品衛生検査を行う環境を提供できます。また、計測結果を短時間で得られるため、さまざまな付加価値を加えた利用方法が期待されます。
食品メーカーのほか、多くの食事を出す老人ホームや結婚式場からの問合せが増えているようです。
(*1)フローサイトメトリー法
細胞その他の粒子が入った懸濁液を秒速10 〜20m の高速で流動させ、それに光を照射して蛍光や反射光散乱光などを光電管で捕え物質の量の分布や大きさの分布などを測定する方法です。細胞表面マーカーの解析に広く用いられています。
(*2)MEMS技術
MEMS:Micro Electro Mechanical Systemsの略で、立体的な微細加工技術を用いて、高機能を有する微細な立体構造からなるシステム。機械、電子、光、化学などの多様な機能を集積化した微細デバイス全般を指します。
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